断熱指数の決定
実験番号:UE2040200
本実験では,ガラス容器上に垂直に立てたガラス管内にあるアルミニウム製のピストンの運動を確認します。ピストンとガラス管は精密加工されており,ガラス容器内の空気は密閉されます。この時,ピストンには密閉された空気の弾力による復元力が働くため,上下に単振動します。このピストンの振動周期から,空気の断熱指数が計算できます。
実験の手順
- アルミニウム製ピストンの振動周期を測定します。
- 容器内に密閉された空気の平衡圧力を測定します。
- 空気の断熱指数を測定し,その結果を文献に記された値と比較します。
実験に必要な機器
- U14327:マリオットのフラスコ ×1
- U14328:振動管 ×1
- U40801:アナログストップウォッチ・0.1秒単位 ×1
- ノギス・150mm ×1 (別途ご用意ください)
- 電子秤(最小表示0.01g) ×1 (別途ご用意ください)
- 圧力計 ×1 (別途ご用意ください)
実験解説書
英語版 実験手順書 ダウンロード(参考,一部取り扱いのない製品も含まれています)
基本原理
Rüchardtによって考案された古典的な実験では,一定の断面積を持つガラス管内にある空気の弾力により,その上に置かれたピストンが示す上下の振動から空気の断熱指数が測定できます。ピストンはガラス管にぴったりと収まるように作られていて,ピストンとガラス管との間には高い機密性が保たれています。ピストンを平衡位置からずらすとガラス管内の空気が膨張ないしは収縮し,それに応じて管内の圧力が大気圧から上下にずれるので,ガラス管外の大気圧はピストンを平衡位置に戻す方向に作用します。大気圧による復元力はピストンの平衡位置からのずれに比例するために,ピストンは単振動をします。
ピストンと周囲の環境との間の熱のやり取りは無視できるとすると,この振動は断熱的な状態変化が伴います。以下の方程式によりガラス管内に密閉された空気の圧力p と体積Vの関係が表されます。
(1)
断熱指数 γ は,定圧比熱 Cp と定積比熱 CV との比で表されます。
(2)
式(1)から,圧力変化 Δp と体積変化 ΔVとの間に成り立つ次の関係式が導出できます。
(3)
ガラス管の内径の断面積 A を代入すると,復元力ΔF を圧力変化の値から計算できます。同様にピストンの平衡位置からのずれ ∆s は,体積変化の値から求められます。このことから,以下の式が適用できます。
(4)
これから,振動しているピストンの運動方程式が導出されます。
(5)
調和振動子に対するこの古典的な運動方程式の解は,以下の周期を持つ振動解になります。
(6)
このことから他のすべての変数の値が求まれば,断熱指数の値が計算できます。
本実験では,大きな容積Vのガラス容器の口に詰めた栓に開けられた穴に,小さな断面積Aを持つ精密に製造されたガラス管が垂直に通してあり,質量 m が既知のアルミニウム製のピストンがガラス管内を機密性を高く保ったままで上下動が可能なように設置されています。ピストンの下側に密閉された状態にある空気の弾力によって,アルミニウム製のピストンが単振動現象を示します。このピストンの振動周期から,空気の断熱指数を計算することができます。
評価
ガラス管の容積は無視できるほど小さいので,平衡状態における気体の体積Vは,気体容器の容積と同一と見なすことが可能です。
平衡状態における気体の圧力 p は,外気圧 p0 と,容器内に密閉された空気に,静止状態にあるアルミニウム製のピストンによって加えられる圧力との和で与えられます。
空気の主な成分は,熱エネルギーの吸収に対して5つの自由度をもつ,二原子分子であることから,予想される結果は になります。
注意
二原子分子の自由度は本来6です(並進運動3,回転運動2,振動運動1)。しかし振動運動は量子力学的効果により振動エネルギーが自由な値を取ることができません。室温程度では二原子分子の振動運動は基底状態のままで,この振動運動の自由度は比熱(熱容量)に寄与しません。